特殊詐欺の被害防止にAI活用
特殊詐欺の被害が増え続けている。警察や自治体が必死に注意を呼びかけても、手口はどんどん巧妙になっていく。そこで、日本で初めて、人工知能(AI)を使って「だまされる側」の心理状態を判断し、危険度が高くなったら家族などに知らせるシステムを開発したのが、行政と大学、企業の研究チームだ。「動揺から、すっかり信用して落ち着いている状態」が最もだまされやすいという。兵庫県尼崎市で実証実験を行い、実用化に向けて進めている。(広畑千春)
尼崎市と東洋大の桐生正幸教授(犯罪心理学)、富士通(東京)が共同で昨年2月から研究を始めた。桐生教授によると、犯人グループからかかってくる電話は、「驚かせて不安にさせ(動揺)」「安心させ」「解決策を示し焦らせる」という三つのパートで構成されているという。
チームは今年3月、尼崎市内の高齢者約20人に実験を行った。心理状態と呼吸数や脈拍などの生理反応との関係を分析し、AIモデルで心理状態を「見える化」することに成功した。
だまされる心理をAIで分析
10月には、市内の男女14人ずつ28人の高齢者に対して、特殊詐欺の手口を模した実験を行った。内容は事前に伝えなかった。「追加報酬」の名目で身分証を見せさせる実験だった。モニターで検知したAIモデルの分析と、実際にだまされた人の状況を比べたら、75%という高い一致率が出たという。
「自分は大丈夫」と思っている人や、「犯人の説明に納得し、自分の判断に自信を持つなど落ち着いてしまっている」被害者は多いと桐生教授は言う。過去の実験でも、そういう人ほどだまされやすいことがわかっている。
特殊詐欺の危険度を数値化し家族に通知
これらの結果をもとに、危険度を数値化した。だまされている可能性が「50%以上」になったら、スマートフォンを通じて、家族などに事前に登録された人に通知を出すシステムを開発した。
今後は、音声解析機能を追加し、尼崎市内の高齢者宅にアラート機能を付けたモニターを設置する。第2弾の実証実験を行う予定だ。富士通研究所の紺野剛史・シニアリサーチマネージャーは「犯人グループは新しい手口を次々と出している。だまされた状態になると、振り込みをしてしまうまでの時間はほとんどない」と言う。「家族だけでなく、他の人にもアラートを届ける方法を考え、早く実用化したい」と話している。